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ヘルニア
ヘルニアとは、体内の臓器や構造が、あるべきところから逸脱した状態を指します。
腹部の内臓に多くみられ、代表的なものとして腹壁ヘルニア、鼠径(そけい)ヘルニア、脳ヘルニア、臍(さい)ヘルニア、椎間板ヘルニアなどがあります。
腹壁に起こる腹壁ヘルニアは、腹壁に何らかの理由で生じた裂け目から内臓が腹膜に包まれたまま腹腔外に出てしまうものです。
脳ヘルニアは、頭蓋内のできた腫瘍などにより脳が圧迫され変位する状態のことです。
椎間板ヘルニアは、椎間板の一部が線維輪を破って突出した状態のことです。
俗に言う“出べそ”は臍ヘルニアのことで、生後2週間から1ヶ月頃の赤ちゃんのおへその突出により診断され、1歳までに9割が自然に治ります。1歳を過ぎても治らない場合や、自然に治っても“出べそ”の状態が残っている場合は形成術を行うことが可能です。
鼠径(ソケイ)ヘルニアはいわゆる“脱腸”のことで、腹膜が足の付け根(鼠径部)の腹壁の弱くなっている部分を通って袋状に飛び出し、そこに腸などの臓器が入り込んでふくらむ病気です。子供に多く、先天的なものです。しかし大人になってからでも体の組織が弱くなったところに起こることがあります。
椎間板ヘルニア
大辞林(三省堂)によると、「ヘルニア [hernia] 臓器の一部が本来あるべき腔から逸脱した状態」とあります。これを「椎間板ヘルニア」に当てはめると、何らかの事情で椎間板が飛び出した(膨れた)状態、ということになります。
人の身体の中心には背骨が通っています。誰でも一度は「人体骨格標本」を見たことがあると思います。そう、理科準備室にありましたね。ですから大体のイメージはできると思います。背骨は24個の骨が積み木のように重なって頭からお尻までつながっています。上から頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨1個、尾椎3~6個でできています。
しかし、硬い骨が単に積み重なっているのではなくて、骨と骨の間に「椎間板」という軟骨があって、いわゆるクッションの役割を果たしています。そして、この積み重なった背骨の中を神経が通っています。加齢や激しい運動などが原因で、時にこの椎間板が外に飛び出し(ヘルニアの状態)、神経を圧迫することがあります。その時激しい痛みやしびれを引き起こします。これが「椎間板ヘルニア」です。
背骨の作りを考えれば、椎間板ヘルニアは、首から腰まで、どの場所にも発生する可能性がある、ということになります。
腰の椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは、首から腰まで、どの場所にも発生する可能性がありますが、ほとんどが腰の部分、腰の椎間板が原因で起こります。身の回りでも一番聞かれるのが腰の部分に起こる椎間板ヘルニアではないでしょうか。
人の背骨の中でも、いわゆる「腰」にあたる骨を「腰椎」といいます。腰椎は比較的大きな骨の重なる部分です。大きいということは、一番使う骨、一番負担がかかる骨であるということです。人の背骨は横から見ると胸のあたりで背中側へ若干湾曲し、つながる腰のあたりは大きく腹側へ湾曲しています。人の立った状態を考えると、この形から腰が負担のかかるところであることはわかるでしょう。
腰の椎間板ヘルニアの自覚症状は、ヘルニアの状態により様々ですが、腰が前に曲がりにくかったり、腰に限らず背中がひどく凝ったり、腰を曲げると太股やふくらはぎに痛みが走り、しびれる感じがしたり、歩き方が何か変だと感じたりする、などです。
このような症状があるなら、腰の椎間板ヘルニアを疑ってみましょう。また、このような直接的な症状に加え、尿が出にくくなった、便秘がちになった、などの変化がある場合は、整形外科などの専門医に早めに相談しましょう。
椎間板ヘルニアの対処
突然の椎間板ヘルニアに、誰もが「どうしたらいいんだろう」と不安になります。
椎間板ヘルニアの対処法、それはまず「絶対安静」です。椎間板ヘルニアになった直後は無理をしがちです。例えば曲がるか、回るか、痛いのはどこか、確かめたくなって動かしてみるでしょう。これが“無理”なのです。これは椎間板ヘルニアの対処ではありません。結果、状態は悪化し、長引いてしまうことが多いのです。まずは観念して、そして、横になって安静にしてください。椎間板ヘルニアになった時のそれが一番の対処なのです。
基本的に初日が痛みのピークです。ここで辛抱するのが効果的であり、効率的です。痛みのひどい時はとにかく「安静」です。次の対処は「患部のアイシング」です。椎間板ヘルニアは疲労のたまったところの炎症、捻挫であることが多いので、一番楽な姿勢を確保して、オーバーワークでオーバーヒートした筋肉を冷やしてあげましょう。足や腕の捻挫や発熱時の対処と同じ原理です。誰かの手を借りて、姿勢固定の安静でのアイシングが必要です。
腰の椎間板ヘルニアの場合には特に固定による対処が必要です。アイシングがある程度できたら、楽な姿勢で腰を固定しましょう。骨盤のズレが生じている場合があるからです。無理な動きを抑制することにもなります。
そして、徐々に回復してきた時には無理をせず、痛みの起こった部分に負担のかかる動きは避けてください。まだ完治したわけではありません。ちゃんと専門機関に相談しましょう。慢性化だけは防ぎたいものです。
腰椎椎間板ヘルニア
突然の腰痛と太股から足先に至るしびれが腰椎椎間板ヘルニアの特徴です。
腰椎椎間板ヘルニアは以前は20代から50代の人に多く見られる症状だったのですが、最近、10代の若い人にも見られるようになってきました。
ヘルニアとは「突き出した状態」という意味で、まさに椎間板が突き出したものが椎間板ヘルニアということになります。もし、足のしびれやお尻のしびれを自覚した時には、その部位の異常とは思わず、まず腰椎の椎間板ヘルニアを疑ってください。
簡単なチェック方法があります。腰の上げ下げの動きにしびれが連動していないか確認するのです。足をそろえて仰向けに横になり、どちらか片方の足を90度までゆっくり上げてみてください。しびれがひどくて上がらない人はヘルニアの可能性が高いです。しびれではなく、腰が抜けそうな感じを自覚した場合はぎっくり腰などの急性の炎症の可能性があります。
腰椎椎間板ヘルニアの初期の症状は、具体的には歩行困難、咳・くしゃみに伴う激痛、座った状態から立ち上がることが困難、前かがみの姿勢がつらい、少し歩いただけで腰から下に起こるジーンとした痛みなどです。このような症状が見られる場合、腰椎椎間板ヘルニアと疑って、一度専門機関を受診することをお薦めします。
体を動かすことすら困難な激痛が起こることも多々あります。その場合はとにかく「絶対安静」です。自分で可動状態を確認することは絶対に避けてください。逆効果です。
椎間板ヘルニア 手術方法
椎間板ヘルニアの治療として、手術する方法があります。
手術にはそれぞれの症状により効果が期待できるもの、できないものがあります。手術を希望するのであれば、担当の医師とよく相談してから受けましょう。
・レーザー治療:
高出力レーザーによる経皮的髄核減圧術(PLDD)のことです。保存療法と切開しての手術の中間的治療です。日本では1992年から行われています。皮膚の上から数㎜の針を刺し、椎間板中央の髄核にレーザーを照射します。髄核の容量を減少させ、椎間板の内圧を下げる事によりヘルニアを引っ込め、神経への圧迫を軽減させるという仕組みです。治療にかかる時間はおおよそ10数分ですが、すべての椎間板ヘルニアに有効な手術とは言えず、一部のものにはほとんど効果がない場合もあります。また保険適応になっていませんので、およそ20~40万円の費用がかかります。
・ラブ法(LOVE法):
全身麻酔で行います。背中側から5㎝ほど切開し、腰椎の一部を削って脊髄神経を圧迫している脱出した髄核を切除する手術です。手術時間は30分~1時間くらいです。術後経過にもよりますが、通常1~3週間で退院できます。椎間板ヘルニアの手術としてはオーソドックスな方法です。
・内視鏡下ヘルニア摘出術(MED法):
全身麻酔で、内視鏡を使って椎間板ヘルニアを摘出する手術です。背中を1.5㎝程切開し、内視鏡と外筒管を挿入して、内視鏡の映像をモニターで見ながら髄核を摘出します。手術時間は1時間程度で、傷口も小さいく、術後の痛みも軽くすみます。入院期間は1~2週間です。
・経皮的髄核摘出術(PN法):
局所麻酔で行います。X線透視下で、背中に直径4㎜程度の管を刺し、鉗子を入れて椎間板の一部(髄核)を摘出する手術です。髄核を摘出することにより内圧が下がり、神経への圧迫が弱くなって症状が軽くなります。手術時間は30分~1時間です。欧米では日帰り手術として行われていることでも知られています。
・脊椎固定術:
手術により神経への圧力を取り除くことで、不安定になった脊椎に対して骨の移植や金具を使って脊椎の間を固定する手術です。
椎間板ヘルニアの手術
この世の終わりとも思えてしまう激痛の椎間板ヘルニアとはいっても、やはり手術は避けたいものです。手術が最終の手段であるということは昔も今も変わらない認識です。
しかし、現代の発達した医療の恩恵に浴さない手もありません。椎間板ヘルニアの手術を受けるべきか否か、手術に踏み切る時期は、方法は…。医師と十分なインフォームド・コンセントが行われるべきです。
皮膚や骨は再生能力がありますが、脊髄の細胞には再生は望めません。椎間板ヘルニアのように椎間板が圧迫された状態が長く続くと、神経細胞がだめになり、手術をして圧迫を取り除いてもだめになった脊髄細胞は元に戻らなくなります。こうならないために手術を受ける必要が生じてくるのです。
椎間板ヘルニアにおいての手術を決めるタイミングは、痛みの程度でいうと「これ以上我慢できない」時で、「手術をしてでも楽になりたい」と思った時で十分です。体のいろんな部分に現れる症状でも自分で確かめられる目安があります。足の症状では、歩きにくい、転びやすい、階段でつまずきやすい、膝がガクガクする、片足とびがスムーズでないなどが気になる場合です。また、頻尿、尿が出にくい、残尿感があるなど、お小水の症状も注意が必要です。
頸椎椎間板ヘルニアの場合、指先の症状が治療や手術を受ける基準となります。指先のしびれ感がひどい、ボタンのはめはずしや箸やペン使いがうまくいかないなどが気になる場合、また、グーパーの繰り返しが10秒間に20回を下回るなど、確かめてみてください。
椎間板ヘルニアの疑いがあり、このような状態に至る経緯が急であればあるほど、また若ければ若いほど手術に踏み切るのは早いほうが良いと言われています。
腰痛と椎間板ヘルニア
つらい腰痛症状を引き起こす原因と考えられる腰椎椎間板ヘルニアですが、人が2足歩行を始めた時からの宿命なのかもしれません。
ジョージ・ワシントン大学の研究において、興味深い調査報告がなされています。過去に全く腰痛を経験したことのない人をMRI検査で観察したところ、60歳以下の痛みのない人の1/5に椎間板ヘルニアが認められ、半数の人に椎間板の膨らみが見られたというものです。また、60歳以上では1/3の人に椎間板ヘルニアが存在し、80%近くの人に椎間板の膨らみが見られたともあります。
これは、坐骨神経痛や腰痛がなくても、椎間板ヘルニアを持つ人がかなりの確立で存在していることを表しています。
脅すわけではありませんが、この報告のとおり、痛みの症状こそ表れていないだけで、あのつらい椎間板ヘルニアの痛みは誰にでも起こりうるものであるということになるのです。
椎間板ヘルニア、それは人ごとではないのです。普段から「正しい姿勢」、「負担のない動作」を日常生活においても意識的に取り入れること、そのことによって多くの椎間板ヘルニアは防げるものなのです。加齢によるものは仕方がないとあきらめないでください。椎間板ヘルニアは決して人ごとではないことと、多くの腰痛は対策を施すことにより椎間板ヘルニアを未然に防げること、この二つを常に頭の片隅に入れて生活することが大切です。
椎間板ヘルニアの治療
椎間板ヘルニアの治療は難しいといわれています。椎間板ヘルニアと診断されるともう治らない、と諦めるのがまだまだ大方の認識です。確かにつぶれてしまった椎間板そのものを完全に元に戻すということは難しいです。
しかし椎間板ヘルニアの多くは良性で、3ヶ月で60%の人が痛みは自然に改善したと言っています。人の体にある自然治癒力が本能的に働くことによるものと考えられています。ですから、まずは前向きに椎間板ヘルニアと向き合ってください。
椎間板ヘルニアの治療は飛び出した椎間板を処理することによります。その方法は大きく分けると2つあります。「外科的手術」と「手技によるヘルニアの押し込み」です。どちらがいいかはヘルニアの度合いによります。例えば、椎間板ヘルニアの突出具合が中程度であれば「手技によるヘルニアの押し込み」で治療・改善することが多いようです。このくらいの椎間板ヘルニアであれば、体に負担をかけてしまう手術は避けた治療方法を選ぶのが良いのかもしれません。
しかし、最近では体に負担の少ない「内視鏡手術」や「レーザーによる手術」などが増えてきており、椎間板ヘルニアの治療としても、外科的手術も患者の体に優しいものとなってきています。
レーザー手術は椎間板ヘルニアに「効果あり」という症例報告も増えており、実際に治療を受けた患者さんからの評価も良いものとなってきています。
したがって優れた効果を期待できる治療法ではありますが、健康保険の適用外の為にコストがかかってしまうのが難点といえます。
椎間板ヘルニアのタイプ
椎間板へルニアには、大きく2つのタイプがあります。
一つは脱出型ヘルニアです。髄核を囲む繊維輪に何らかの理由で亀裂が入り、そこから中の髄核が繊維輪を完全に飛び出してしまうタイプで、激しい痛みのわりに数ヶ月で症状が軽くなることが主です。
もう一つは膨隆型ヘルニアで、繊維輪に亀裂はできていないので、髄核が繊維輪から飛び出すものではなく、髄核と繊維輪が一緒に膨れあがり神経に触るというものです。このタイプの場合長引くケースが多いといわれています。
神経根の圧迫状況と体の傾き・痛みの関係でも椎間板ヘルニアのタイプが分けられます。椎間板ヘルニアによって圧迫される神経根が内側か外側かによって、体に傾きが起こります。体が痛みを和らげようと無意識に表れる体の傾きの状態です。
外側性ヘルニアは、神経根の外側を圧迫するため体は痛みと反対側に傾きます。
内側性ヘルニアは神経根の内側を圧迫するため体は痛む側へと傾きます。
中心性ヘルニアは、椎間板が真後ろ(中心)に向かって脱出または膨らむため、脊髄神経本体を圧迫するタイプで、腰を丸めた状態で痛みがひどくなります。
椎間板ヘルニアの治癒
椎間板ヘルニアの詳しいメカニズムは未だに不明なところが多いとされています。ですから椎間板ヘルニアの治癒についても一言で述べることは難しいものとなります。
しかし、症例を見ると、椎間板ヘルニアはその多くが良性で、3ヶ月で60%の人に痛みが自然に改善したと見られるとの報告がされています。
椎間板ヘルニアはなぜ自然と治癒するのでしょう?その理由として考えられているのが、人の体が持つ自然治癒能力といわれるものです。例えば、背骨の構造がそれなりに変形・安定したため、痛みに対しての防御反応から痛み方が鈍くなる、ヘルニアの部分の炎症が起きにくくなるなどと考えられています。また、最近では、ヘルニアは貧食細胞に貧食され、いずれなくなるのではないか、という説も出されています。
このように、多くは時間とともに改善される椎間板ヘルニアですが、緊急に手術が必要となるケースもあります。膀胱・直腸障害(排尿時や排便時が困難など)、持続的な強い痛み、重度の下肢の麻痺などの症状がある場合です。
椎間板ヘルニアでつぶれてしまった椎間板そのものが完全に治癒・回復するのは難しいとしても、多くが自然に治癒し、また手術により改善されます。